このブログについて


バラの栽培についての考え方や方法は多様です。その多様性こそが、バラが文化として豊かであることの証左なのでしょう。
"答え"は一つではないとすれば、バラ栽培の楽しさは、"自分のバラの世界を見つけ出す" その過程にあると思っています。

このブログは試行錯誤中のバラ栽培の記録です。一部の記事はバラ仲間に私の方法を紹介するために書いたものもありますが、
「栽培ガイド」の類ではありません。バラ栽培を始めた頃に書いた記事の内容は現在の栽培方法とは異なるものも多く、
技術的にも拙くて誤謬も多々含まれていると思われます。批評的に読んでくださるようお願いします。

2024年4月9日火曜日

ペットボトルでバラの水挿し 鉢上げ

前回のレポート(3月17日/前のページ)から4週間ほど経過しました。福岡の今年の3月は天候不順、やや低温傾向で、桜の開花も少し遅れましたが、バラの生育はそこそこ順調です。ハウスに来たバラ仲間から、『今年の生育はいいね』と褒め言葉が。そんなことは私のハウスでは滅多にないことです。昨秋の肥培管理の失敗に懲りて、今年は栽培方法を大きく変えました。もちろん、その結果はまだわかりませんが、とりあえず嬉しい:p

水挿しの発根 そして新葉の展開

さて 水挿し ですが、水挿しは1月13日前後に計25本を試みました。そのうちの2本は失敗して既に廃棄し、あとの23本は4週間でこの程度に成長しました。

3月9日 "あけぼの" など、HT3品種
4月6日 左同 "あけぼの" "手児奈" "魅惑"
3月10日に "ジェミニ" の発根を確認
左同 4週間後4月6日の状態

ジェミニの挿し穂は秋に出たシュートです。挿木した時点でまだ葉が残っていました。葉柄が残っていると、新芽が展開せずにまず発根するようです。根がボトルの口から出る程度(8㎝程度)に伸びると芽が膨らみ始め、葉柄が落ちます。

発根を確認してから、規定濃度の1/4に薄めた液肥を与え始めました。使用したのは私の定番の リキダス|㈱ハイポネックスジャパン を2回と、今年から使い始めた タンクミックスA&B|OATアグリオ㈱ です。生育は旺盛です。

失敗事例ー3

この挿し穂は、前のページで取り上げた失敗株とは症状が異なります。原因は特定できませんが、挿し穂の両端が褐変していることから、鋏や小刀から菌が入った可能性もありそうです。発根量はまずまずで新芽も元気ですが、変色はゆっくりと拡大傾向にあるので、この先が期待できないと思い廃棄しました。

デービッド接ぎとの比較

3年前から育種を試みていますが、これまでに咲いたバラはいずれも香りがないのが残念。なので、香りの良いバラを交配親にすべく、今春は10品種あまりの穂木をバラ仲間からいただきました。いずれもPBR保護期間切れの古い品種で、このパローレもその一つです。*ちなみに、交配に使用する場合は、種苗法第21条「育成者権の効力が及ばない範囲」の規定によって、PBRが生きている品種でも、育成者権者の了解を得ることなく利用することができます。

パローレはやや未熟な穂木かと思ったのですが、デービッド接ぎ、水挿しともに元気よく成長しています。

大輪・強香のHT "パローレ" 3月9日
左同 4月6日
3月12日 HT "ジェミニ"
左:デービッド接ぎ 五枚葉6節でピンチ後
左同 4月7日 左:2段目(赤い葉色)が伸びている
株元をよく見ると、早々とベーサルシュートが。

Root Ball

今回の「ペットボトル&水苔」の環境でできた "Root Ball"(ルートボール/根鉢)は、挿してから約10週間後でこのような状態です。根長は、長いもので8㎝程度でしょうか。

ペットボトルから取り出すときは、根鉢が膨らんでいるので、その圧で簡単には動きません。挿し穂を無理に引き抜くと根が切れます。ボトルを逆さまにして、ボトルの口から棒を差し込んで根を切らないように慎重に押し下げます。「根毛」(Wiki)  が痛むのをできるだけ少なくするために根鉢の水苔をほぐすこともせず、そのまま植え込みます。

水と無機養分を吸収する根毛は、根の表皮細胞が変化したもので直径は0.01㎜。肉眼で見える白根の先端付近から多く出ています。根毛は切れてもまた生えてくるんですが、その間はバラの生育が停滞気味になるので、根を痛めないように取り扱います。

白根の周りの緑色は、シアノバクテリアなどの 藍藻類(Wiki) だろうと思います。 見た目が綺麗ではないけど、根に寄生しているのではないから、光合成をして酸素を供給してくれていると思えばいいのかな。養液耕・アーチング栽培をしている切りバラ生産者の培地(ロックウール)はもっと濃い緑色を呈していることもあります。でも、それを気にしているようには見えません。その一例を2012年4月の記事:「ロックウールを使った バラの挿し木(2)」で紹介しています。

鉢上げ

ボトルの口から白根が出たHTやシュラブを "鉢上げ" しました。

ポットは5号ロングスリット鉢で、培土は以下のような組成です。

水挿しの鉢上げ培土
資材容量(リットル)容量比(%)
赤玉土1435
鹿沼土1435
軽石12.5
ゼオライト12.5
ピートモス512.5
籾殻燻炭512.5

有機物の割合が少なく、一般的な培養土に使われる腐葉土や堆肥類は入っていません。これは、今年は「養液耕」(まがい)の栽培を試したいと考えているからです。

土と有機物、そして土壌微生物の働きを利用した正統的な栽培法に代え、すべての株を「養液土耕(隔離栽培)」で育てます。通常の「養液耕」はそのための給液装置が必要なんですが、そのような設備は私のハウスには無いので、底面給液で代用します。"まがい" というのはそのような意味です。

養液肥は前述の タンクミックスA&B|OATアグリオ㈱ を使っていますが、今のところ生育は順調です。冒頭で紹介したバラ仲間の褒め言葉は、私の技術が向上したのではなく、これの効果なんでしょう。

溶液耕の培地は様々な資材が工夫されているようです。私の「養液耕・まがい」には何が適当なのか、接木した新苗でテストを始めています。この組成は "とりあえず" のものですが、このように12株を鉢上げをして、育苗ハウスから栽培ハウスに移動しました。この状態で2ヶ月間ほど育て、その後は地植えにする予定です。


アヴァランチェ+ その後

"アヴァランチェ+" はスタンダードタイプの切花品種です。花屋さんで10本購入し、HTなどよりも1ヶ月遅れの2月17日に、水挿し、ロックウール挿し、デービッド接ぎの3種類の方法を試みました。充実度が低い(肥料と加温で無理に咲かせた感のある)開花枝でしたが、スローペースながら成長しています。

3週間後 3月9日
左同(+ロックウール挿し) 4月6日
水挿し 4月6日
デービッド接ぎ 4月6日

"アヴァランチェ+" の水挿しは、発根しているのは見えていますが、まだ鉢上げするほどには伸びていません。鉢上げを済ませたHTなどより1ヶ月遅れて挿したので、たぶんあと2週間ほどで鉢上げできるでしょう。

水挿しの改善点

  • 水挿し3本の右の培土(軽石)の色が違うのは、手元を誤ってひっくり返し、溢れた分を新しい軽石に入れ替えたからです。この方法の欠点の一つはペットボトル容器が不安定なことで、改善する必要があります。挿し穂の長さを(20㎝ではなく)2節=10㎝程度にすれば安定性が増すかも。

    2節にする場合は、「葉がある枝を挿し穂に選び、上側の節にある芽の状態を確認して葉柄は残す。下の節は芽抜きをして、1芽だけ伸ばす」という方法です。梅雨の時期に挿す「緑枝挿し」や10月初旬の「秋挿し」の挿し穂は、2節がベターでしょうね。切りバラ生産者の挿し穂は1節ですが、大量に挿すので穂木の節約という側面もあるようです。

  • もう一つ改善すべき点は緑藻(藍藻類)対策。除草剤的な "殺藻剤" は使いたくない(良いものを知らない)ので、とりあえず手持ちの "アクアリフト 300LN" の試用(貯水タンクに投入)を始めました。これは "放線菌"(推測/菌株は未公開)がメインの微生物資材で、水質浄化専用ではないけれど、溜池などに繁茂するアオコ対策にはある程度の効果があり、貯水タンクの水も透明度が増します。

  • さらに、重要な改善点として、今回使った軽石よりも鹿沼土がベターかも。軽石は(鹿沼土と比べて)、中に含まれている 空気⇔水 の入れ替わりに時間がかかる(軽石の名の如く吸水し難い粒がある)のがその理由です。

デービッド接ぎは、質が悪く捨てていた台木を20日後に拾い出して、計4本接ぎました。でも台木は瀕死状態だったので新根が出ず、かろうじて1本だけが(ちょっと "いじけて" いるけど)なんとかなりそうな気配です。

この培土には腐植が見当たらず、まるで小石の中に植え込んでいるかのよう。養液耕(まがい)なので、成株の10号鉢も含め、すべてがこのような培土です。EC(電気伝導度)で肥培管理する養液耕に、CEC(保肥力)が高い腐葉土や堆肥類は無用で、それらを抜くと EC値とバラの生育状態(肥効)がすっきりと比例している ように見えます。 ←怪しい:p

試みている成株の養液耕については、一番花の後にその内容を検討したいと考えていますが、現時点では良好な生育を示しています。ポイントは "気品のある花" が咲くかどうか。

アヴァランチェ+ ロックウール挿し

元記事のテーマは「手軽に挿し木栽培を楽しむ」ということでしたが、「手軽さ」ということでは、「ペットボトル+水苔」よりこのロックウール挿しが優っているかも。でもあまりにも手軽で、何もすることがなく、変化も見えず、栽培として面白いとは思えません:p

実用性の面からは、ロックウール挿しは切りバラ生産者や一部のバラ苗生産者が採用しているので、優れた方法なんでしょう。来年の台木はロックウール挿しで作ろうと、その挿し穂を得るための母木(癌種病抵抗性あり)を10株あまり地植えしました。枝の成長程度を見て、7月か、あるいは10月に挿す予定です。

葉柄がいつまでも残っていて、芽の動きもないが・・
左同(3月29日に最初の発根を確認して10日後)
ロックウールの一部をむしり取り、この状態で植え込む
根がしっかりしているので、今後が期待できる

挿木で母木を作ることもある切りバラ生産者から、『挿し穂には必ず葉を1枚つけておく』と教えてもらったことがあります。発根する前に展開した新葉は大きくなりません。このロックウール挿しのように、まずしっかりした根が伸びてから、その後に新芽が展開するのがベターなんですね。 それはそうなんでしょうが、勝手に葉柄が落ちるのはどうしようもない:p

これを逆に見れば、挿し穂に最適な充実度はしっかり葉が残っているやや未熟な程度がいいのかも。その典型は前掲のパローレやジェミニです。このアヴァランチェ+も葉柄が残っているので、その新芽がどのように展開するのか興味津々。これが今回の一連の結果から学んだことの一つです。

アヴァランチェ+は、このままいけば10株は増殖できそう。交配親にしたり、養液耕や1本独鈷のテストに使うつもりです。

書きかけのテーマ:「品種育成者の権利の保護」の観点からは、これがPBRの保護期間内にある品種であっても、有償・無償を問わず譲渡しない限り種苗法には抵触しない(何株増殖しても、数は問題ではない) のだそうです。栽培者としてはありがたいことなんですが、これを品種育成者の側から見ればどうなんでしょう?

(でもそう思うとしても、このような増殖は止めておこうとは思わないので、身勝手なものです:p)

切りばら生産者が、いわゆる「パテント料」(1株100円程度〜)を支払って母木を挿し木で増殖するように、私のようなアマチュア栽培者のための何らかの別のシステムがあって、それで品種育成者の権利が保証されるのがいいのかなと思っています。


まとめ

さて、このように "Own Root Roses" の栽培がスタートしました。

最初のページ末尾の「参考」で紹介した Paul Zimmerman さんが、"Your Own Root Roses' First Season" というタイトルのYouTubeで、"slow"  "less" をキーワードに、自根バラ1年目の育て方を説明しています。以下、その一部を超意訳。

挿し木(自根)バラの栽培で最も大事なことは  "patience"(我慢・根気)。"absolutely patience"(と強調)。例えば、早く大きくしたい欲求にかられて肥料をどんどんやりたくなるのを  "我慢"  するとか。

オーガニック栽培(コンポストなどの"slow"な肥料)で、"less" 農薬で病害虫に対する免疫を獲得し、過剰な灌水や強剪定は避けて、"Root first, top second." を。

私のこのでかい手のひらも赤ん坊のときは小さかった。時間をかけて、自然の成り行きに任せて、赤ん坊のバラが育っていく、その道程をエンジョイしてください。

いいね 😀

"自然の成り行きに任せて""let nature run its course" を、それと同じ意味でしょうが、私の師匠のデービッドさんは、 "バラが自分の力で成長しようとする、その生命力を信じて" と表現します。

・・私が栽培者として至らぬ点は、この境地には遠く及ばないこと。 今年のテーマは「養液耕・隔離栽培」ですが、それは、"nature" とはほぼ真逆なことをやろうとしています。自分にとっては "避けては通れない通過点" と思っているのですが。。
でも、アヴァランチェ+以外の水挿しした株は 地植えにして、自分の栽培の原点に回帰する( ➞ "そらのサンサーラ" ) ・・と言えば大袈裟:p ですが、

"let nature run its course"

これに沿った栽培も再(犀)スタート。目指すゴールはどこか遠いところにあるのではなく、"今ここに" あると思っています。眼を曇らせている意識の濁りを拭い取ることができれば、それが見えてくるかも。


書き進めるにつれ、テーマが元記事から逸れてしまいました:p 批評的に読んでいただいて、叩き台にでもしていただければと思います。ほんとうに大事なことは(人から教えてもらうことでは得られず) 自分で見つける ものですね。

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