春になりました。
今春はバラの生育が順調です。デービッド接ぎ203本のうち、失敗(お地蔵さん状態)は6本で、成功率は97%という好結果。交配してできた種は1300粒を播種して、発芽が始まりました。これらは別ページで記録する予定です。
水挿しは25本を試みて、現時点での失敗は1品種2本です。水の交換などがしやすいように、作業ベンチの手前側にペットボトルを横に並べています。
水挿し その後
水挿しの結果を云々するのはまだ早いのですが、途中経過を記録しておきます。写真は3月10日前後に撮影したものです。
発根を確認
挿し木したのは1月18日なので、新根が見えるようになるまでに7週間ほどかかりました。育苗ハウスがある場所は、最低気温が福岡管区気象台のデータよりも2〜3℃ほど低く、この期間のハウス内の最低気温はマイナス2℃でした。室内での水挿しなら発根はもう少し早いと思われます。
この2本もHTで、"ジェミニ" と "ダイアナ" です。上の3品種と異なるのは、挿し穂が秋に出たシュートで若い葉が残っていること。新根の長さは同程度ですが、葉柄が残っていると新葉の展開は遅くなるようです。
失敗事例ー1
1月13日の記事:「ペットボトルでバラの水挿し」で紹介した実例の3本は、シュラブ、HT、ERの3種類でした。未熟と思えるHT(真ん中)が成功するか些か心配でしたが。。ところが予想に反して、充実した挿し穂と思ったシュラブ(左)が失敗。
挿し穂の基部から上に向かって暗褐色に変色しています。この挿し穂はそれがかなり進んでいて、展開しかけた新葉もすでに萎れています。挿し木にありがちな失敗例で、原因はわかりませんが、もし道管に気泡が入り水の凝集力が切れて水が揚がらなくなったのなら、挿し穂が黄色く枯れ込みます。「雑菌が繁殖して道管を塞いだ」というのでもないと思います。その場合は "ヌメリ" が出るはずです。この症状は、たぶんなんらかの生化学反応が起きているのだろうとみています。
失敗事例ー2
これも上と同じ品種で1本の枝から2本の挿し穂を作りました。2本とも同じ症状で失敗した結果から、失敗の原因は穂木そのものにあるようにも思えます。
この挿し穂の上半分はまだ緑色を残していたので、それをロックウールに挿し直しました。それによって葉も僅かに元気なったようですが、新梢の先端が枯れているし、原因もわからないままなので対応のしようがなく、復活は難しいかも。
デービッド接ぎとの比較
デービッド接ぎと水挿しを同時進行しました。いずれも同じ品種・穂木なので、それぞれの生育程度が比較できます。
デービッド接ぎは、五枚葉が5〜6節展開した時点でピンチを終えています。このような生育差があります。挿し穂には根が無いので当然なんですが、見較べると、『バラの増殖は接木がベター』と誰でもそう思うでしょうね。私も競技用のバラ株を挿し木で作ろうとは思いませんが、でも数年後にどんな花が咲くか、やってみないことにはわからない。そんな "本気挿し" です。
切りバラ品種も試みる
花屋さんで見かけたスタンダードタイプの切りバラ "アヴァランチェ+"(Avalanche+/オランダの種苗会社・LEX社)が上品できれいだったので、これで増殖を試すことにしました。
挿し木や接木をしたのは2月17日で、下は作業から約3週間後の3月9日に撮影したものです。
切り花品種の本気挿しは初めてです。ステムの長さは60㎝と充分でしたが、意外に未熟で、穂木に使える部分の葉も痛んでいて、その品質にちょっと驚きました。それでも開花枝10本から、水挿し5本、デービッド接ぎ4本、ロックウール挿し6本(写真右)を作ることができました。もしうまくいけば、これを交配親にという目論見があってのことなんですが。
LEX社のバラは名前の右上に小さな "+" が付いています。かって "ロッシ+" という黄色のバラがありました。輝くような黄色が美しいバラで、「バンビーノ・デ・オーロ(黄金の子)」と称賛されたサッカー選手のパオロ・ロッシに捧げて名付けられたのだそうです。今は権利が他社に移って品種名も変わってしまったようで、残念。
PBRについて
現在書きかけの前ページ:「品種育成者の権利(PBR:Plant Breeder's Right)の尊重」の「種苗法」的には、購入した切りバラをこのように増殖しても、その株を家庭内で栽培を楽しむ範囲にして、有償・無償に関わらず 譲渡しなければ、種苗法には抵触しない ということを、「農研機構」(国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構/NARO)に電話で問い合わせて、確認しています。
備考:品種登録を管轄するのは農水省ですが、NAROは登録申請のあった品種の試験栽培など、認可のための実務を担当する組織です。
‥それはそうなんでしょうが、「個人が家庭内で栽培を楽しむ範囲であれば増殖は自由」というNAROの解釈(もちろん、農水省も同じ)は、種苗法の目的(第1条)「品種の育成の振興と種苗の流通の適正化を図り、もって農林水産業の発展に寄与することを目的とする」にかなうことなのか? 私はまだ得心がいきません。ちなみに欧州では個人が家庭内で栽培するのであっても、栄養繁殖する植物の、許諾の無い自家増殖は禁止されていると聞いています。農水省もその方向を向いているように思えますが、日本の農業文化や、政治的・政策的に配慮することも諸々あるのでしょうか。
参照:「登録品種の種苗は適正に利用しましょう」|農水省 のパンフレット
農業者ではなく、趣味でバラを栽培する私にとって、「外に出さない限り自家増殖は自由」とするNAROや農水省の説明は都合がいいのですが、でも作業をしながら、このような増殖は(これが登録品種なら/未確認)PBR の侵害なのでは?と思ってしまいます。「交配親にするための試験栽培」という目的も "言い逃れ" とも言えますしね。農水省やNAROの解釈の前提にあるのは、挿し木や接木の技術を持っているアマチュア栽培者は少ないし、家庭内に限定すれば増殖する数もたかが知れているだろう(無視しても構わない)という認識なんでしょう。でもバラ苗の場合は1株が高価で、多品種・少量生産なので、他の植物とは違う側面があるように思います。
種苗メーカー(大手のバラ・ナーセリー)は、「バラ苗の無断増殖は禁止されている」と言っているので、自分の考えをまとめるのにもう少し時間がかかりそう。「何が正しいのかを判断するのは、種苗メーカーでもNAROや農水省でもない」と思うヘソ曲がりなので、始末が悪い:p