このブログについて


バラの栽培についての考え方や方法は多様です。その多様性こそが、バラが文化として豊かであることの証左なのでしょう。
"答え"は一つではないとすれば、バラ栽培の楽しさは、"自分のバラの世界を見つけ出す" その過程にあると思っています。

このブログは試行錯誤中のバラ栽培の記録です。一部の記事はバラ仲間に私の方法を紹介するために書いたものもありますが、
「栽培ガイド」の類ではありません。バラ栽培を始めた頃に書いた記事の内容は現在の栽培方法とは異なるものも多く、
技術的にも拙くて誤謬も多々含まれていると思われます。批評的に読んでくださるようお願いします。

2016年12月24日土曜日

スタンダード芽接ぎ挿し 8/18

2016年の「スタンダード芽接ぎ挿し」は3人で計18本を試みて、そのうち8本がうまくいきました。成功率が44%と極めて不本意な結果ですが、その原因を考えてみます。

芽接ぎ挿し 2016年2月

作業は2日に分けて行い、グリーンさんとバーバラさんが2月11日に各4本の8本(手前側:白の水受け皿)、私が2日遅れて13日に9本を「芽接ぎ挿し」しました。「三ツ矢サイダー挿し」も加えると総計18本です。

2016年4月上旬 捻枝と芽の動き

芽接ぎ挿しから約2ヶ月後4月11日の状態です。私の株ですが、芽の動きがとても緩慢です。

逆に、枝を残しておいた台木の先端附近からは新芽が旺盛に出てきたので「捻枝」をしていますが、この「差」は気になります。蒸散による台木の活性化と台木カットのタイミングなど、解決しなければいけない問題がありそうです。

写真上右の「芽」の切片は台木の切り込みに較べてやや小さいですね。それは作業時に気づいていたのですが、「芽の基部(下側半分)が合っていれば、さほど大きな問題ではない」と考えました。その理由は、芽の切片に水分や養分を送り込むのは、切片の周囲の形成層のうち、特に下側の部分であると考えたからです。

芽の切片が小さいのは、その状態でカルスの発生具合がどうなのかを確認したいという思いもありました。もう1芽はジャストサイズだったのですが、それも同じような動きだったので、切片のサイズが小さいことが発芽に悪影響としたとは思っていません。でも、形成層をできるだけ多く合わせるのはやはり意識すべきでしょうね。

2016年4月下旬 芽接ぎ挿し失敗の原因は?

4月20日過ぎには結果が見えてきました。それを先に書けば、女性陣の8本が全滅で、私のは10本中2本が失敗してしまいました。

失敗した2本のうち「三ツ矢サイダー芽接ぎ挿し」はともかく、ふつうに挿した1本を失敗したのは納得がいきません。

女性陣の8本も同様で、挿し木50日後の3月末まではまだ期待できる状態だったのですが、その後も芽の動きが遅く、気温の上昇とともに台木がゆっくりと褐変していきました。廃棄する際に台木基部を調べましたが、8本中6本はまったく発根していませんでした。

2本は発根したのですが、接いだ芽がついに動かず、最終的には台芽が伸びました。

写真左と下は生育が良かった「ティージング・ジョージア」の4月22日の状況です。この日7号スリット鉢から9号鉢に鉢増し。その根量はこの程度でした。

台木は2年枝です。2芽接いで、いずれも元気よく伸びています。

白い9号鉢の手前の黒いLP-120ポット(長短2本の台木)はバーバラさんが接いだものですが、いずれも芽が動いていません。この時点ではまだ台木が萎れたり地際が褐変したりという症状はありませんでした。

台木になる長尺枝の採取や挿し木用土の配合などのお膳立て、作業後の管理は私が担当したので、女性陣の8本が全滅という結果はほんとうに申し訳ないです。ほぼ同じ条件での作業なのに、成功したものがそら=8/9と女性陣=0/8に明暗が極端に別れてしまいました

失敗の原因は「挿し木」

接ぎ木の手法は「F芽接ぎ」です。これはバラの接ぎ木の中では容易な手法ですし、ふたりとも手先は器用だし事前に練習もしていたので、多少もたついたとしても芽接ぎのやり方に特に問題があったとは思えません。

今回の失敗の原因は「芽接ぎ」にあるのではなく、「挿し木」が拙かったからです。当然ながら、挿し木に失敗すれば発芽することはありません。仮に発芽したとしてもすぐに萎びてしまいます。

下の表は今年のスタンダード芽接ぎ挿しの概要です。ほぼ同じ条件にもかかわらず、挿し木の成否を分けたのは何だったのでしょう?

2016年 芽接ぎ挿し 作業内容
女性陣 そら 備考
成功数 0/8本 8/10本 そらの10本には「三ツ矢サイダー芽接ぎ挿し」1本を含む
作業日 2月11日午前 2月13日(2日間据え置き) 台木用長尺枝の採取は2月11日早朝
長尺台木 当年枝 当年枝7本(5/7)
2年枝3本(3/3)
当年枝はやや細く、未熟
当年枝・2年枝共に先端の葉がほとんど無く「蒸散」が期待できない
長尺挿し木
成功数
2/8 8/9 三ツ矢サイダー挿しは除外
ポット LP-120(口径12cm) LP-120(口径12cm)1個
LP-150(口径15cm)7個
7号スリット鉢2個
LPポットはスリット加工済
穂木 各自準備 当日朝に採穂
挿し木用土 共通 2年生枝+7号スリット鉢のみ「ボラ土」が多め
水管理 共通(底面給水+ミリオンA) 「水切れ」が起きたことは無いはず

相違点があるとすれば、そして私が気になるのは、長尺枝の採取から芽接ぎ挿しをするまでの「時間」です。

台木にする長尺枝は私の分も含めて、作業当日の2月11日早朝に採取しました。長尺枝の基部を水に浸け置き、女性陣の作業は採取から3時間後のことでした。私は、手順の説明やデモ、挿し木用土の調整などのため当日の芽接ぎ挿し作業はできず、丸2日遅れてしまいました。この間、長尺枝は基部を水に浸け置きしたままでした。

『これは拙いことだ』と思ったのですがその理由は、岐阜大学園芸学研究室の福井博一教授「挿し木の基本」が意識にあったからです。

福井教授の「挿し木の基本」は園芸品種全般について述べられたもので、バラの挿し木に特化されたものではありませんが、この中に(以下一部引用);

挿し穂の採取から挿し木まで

水に浸漬しない【挿し穂の水への浸漬は、疫病やピシウム病などの病害の蔓延を助長し、カルス形成を阻害するため行わない。】穂木を採取したらすぐに挿す。

という記述があり、私もそうだろうと考えていたのです。でも結果から見れば、 穂木を採取してもすぐには挿さず、穂木の基部のみを水に浸漬しておいたほうが高い成功率でした。

それは何故か?

以下は推測ですが、長尺枝を採取した2月11日は、厳寒期は過ぎたといえ枝は休眠状態で、枝に含まれる水分は停滞したまま不足気味ではなかったのか。長尺枝内部の水が2メートルの高さまで上がるのは水の「凝集力」ゆえですが、急激な環境変化で凝集力が切れたのかも。

私の長尺枝は基部を水に浸け、それをハウス内に置いていたのですが、たまたま12日から13日にかけて南風が吹きハウス内の気温は13日午後2時には18℃に達しました。この温度で長尺枝には水が揚ったと思われます。この 予期せぬ僅かな差が明暗を分けた のではないか。

長尺挿し木の失敗の原因は、別の言い方をすれば「枝が未熟」だったこと。充実した枝ならば、福井教授の指摘のように「穂木を採取したらすぐに挿す」で問題なかったのだろうと思います。

挿し木でも接ぎ木でも成功するためのポイントは「穂木や台木の充実度」というのはわかっているつもりなのに、そのために何の手段も講じないまま、動かない芽にヤキモキするのは我ながら馬鹿げたことでした。

芽接ぎ挿しから2ヶ月後の4月29日に、初期生育が良かった3株を9号鉢に鉢増ししました。その他は緩慢な生育だったので、挿し木したときの5号ロングビニポットのままです。挿し木用土は肥料分の少ない用土だったので、緩慢な生育の株こそ鉢増しすべきだったのかも。

これは鉢増しした3株の5月12日の状況です。左側はERの「ティージング・ジョージア」。旺盛に生育する品種ですが、2芽接いだ新梢が素直に伸び、たくさんの蕾をつけています。もっと早めにピンチして脇芽を出し枝数を増やすのが得策なんでしょうが。

同じく6月2日の状況です。左の「ティージング・ジョージア」は開花を確認した後、ハードピンチをしました。その結果、20日間で新梢が伸び始めています。

中央の赤い花はERの「ダーシーバッセル」で、右は「コーヴェデイル」です。いずれも開花の確認後にハードピンチをしました。

芽接ぎ挿しから10ヶ月後 2016年12月

午前9時半には気温38℃を超えるという夏のハウス内の高温にも耐えてそれなりの生育を示し、10ヶ月後の12月にはこのような状態になりました。パレットから下に降ろしている株は先端が天井につかえるからです。長く伸びた枝は自分の重みで撓み、その頂点附近から新しいシュートが出ています。

陰になってよく見えませんが、奥側にはERの「メアリーローズ」と「ラジオタイムズ」があり、いずれもいい感じに育っています。
夏の暑さの影響か、秋の花はそんなに多くはありませんでした。ピンチもしていないのでやや栄養成長気味でしょうか。「メアリーローズ」は今日12月24日には3輪ほど咲いています。

白い水受け皿がある4鉢は、来期用の台木にする「長尺挿し木」です。今季と同様の「底面給水」ですが、先端の葉の様子で水が揚っているか知ることができます。挿してから約40日、外からはまだ発根を確認できていませんが、底面給水はすでに止めています。

初期生育が良かった「ティージング・ジョージア」。 2芽接いで、いずれも素直に伸び、1番花の開花後に自らの重みでしぜんに枝垂れました。接ぎ木した部分が私の身長(173cm)よりやや高い位置にあります。

厳寒期に枝を詰めて露地植えにする予定ですが、スタンダード仕立てにこの品種を選んだのが正解だったのか、ちょっと疑問。しぜんに枝垂れるのはいいのですが、もう少し細かな枝葉が展開するのが理想です。剪定でそれが可能かどうか。

でも、このような伸びやかなスタンダード仕立てがあってもいいのかも。どう仕立てるかはバラに聞いてみます。

これは「コーヴェデイル」。写真が見づらいですが、これも旺盛に生育しました。撓んだ枝の頂点から出たシュートの先端は高さが地上から3メートルになろうかという勢いです。これもやがてしぜんに撓むでしょうが、枝が少ない方向に誘引します。

写真上は左の芽接ぎ部分です。1芽だけ接いだように見えますが、たぶんそうではなく(記憶が曖昧)、2芽接いだうち上の1芽を失敗しているのだと思います。でもこれはさほど大きな問題ではないでしょう。

問題はむしろ 接合部のカルスの盛り上がり。これをこの状態のまま外に植えれば、すぐにでも剥がれるかと心配になる状態ですね。支柱をどのようにデザインするか思案中。


2015年の結果と反省 成功のツボは「蒸散」 バラのスタンダード芽接ぎ挿し から以下の点は改善しました。

  • ハウス内で管理 厳寒期の長尺挿し木は活性が低く、そのような状態では芽が活着しない
  • 底面給水 挿し木用土の水分を毎日チェックできるわけではないので、水切れを起こさないように
  • 捻枝 長尺枝を活性化するために先端の枝葉を残し、同時に接いだ芽が「頂芽優勢」になるように

逆に拙かった点は、台木にする長尺枝の先端に「葉」が少ないことです。成功のツボは「蒸散」なので、これにはもっと配慮(下記)すべきでした。

私のは9本中8本が成功した("三ツ矢サイダー挿し"は番外)としてもそれは多少は作業に慣れているからで、グリーンさんやバーバラさんには結果的に難しいトライでした。手先が器用だとしても、慣れないとどうしても芽の貼り込みやテーピングにそれなりの時間がかかります。この時期の「長尺芽接ぎ挿し」はそれほど微妙な方法なのかもしれません。

失敗するのはおもしろくないので、初心者にはやはり「長尺挿し木」と「芽接ぎ」は分けて、それぞれの適期に作業するのが成功率が高いように思われます。

:私の環境での作業適期は「成功のツボは "蒸散" バラのスタンダード芽接ぎ挿し」で考察しています。

長尺台木作りのポイント

長尺台木作りは今年も結局なりゆきまかせでした。「放任している(充実していない)株から適当な長さの枝を採取する」では、スタンダード芽接ぎ挿しは作れないことを肝に命じようと思います。具体的には;

  1. 5年を超えた母木は更新する
  2. 初夏、長尺台木の候補になりそうな枝を選び、なるべく真っすぐ上に伸びるよう支柱を添える
  3. 重要 9月上旬に、台木候補の長尺枝の枝先を切り戻し、新葉の展開を促す
  4. 原種系と言えども放任せず、適切な肥培管理をする

昨年の結果から、スタンダード芽接ぎ挿しを成功させるためには、長尺台木の先端の枝葉を残し「蒸散」させることがポイントと痛感しました。参照:成功のツボは「蒸散」 バラのスタンダード芽接ぎ挿し

これは大野耕生さんのアドバイスからヒントを得たのですが、恥ずかしながらそのための措置を何もしていませんでした。今回特に重要だと気づいた点は、3.の「秋の剪定」です。私が長尺台木に使う品種は晩秋から初冬にかけては枝の先端に葉はほとんど残っていません。このページ冒頭の写真でもそれがわかります。だから「蒸散」もほとんどないはずです。

これを避けるためには、9月上旬に枝先を切り戻せば良さそうに思えます。切り戻す位置は、芽接ぎをするだろう予定位置よりも50cmほど(長尺枝の状態による)上で。この時期に切れば新梢が出て、たぶん切らない場合よりも休眠が遅くなる(芽接ぎ挿し作業時に、枝の活性が少し高い)のではと思います。

もし10月上旬に「長尺枝の挿し木」のみをするのであれば、葉が残っているでしょうからこの剪定は不要、というかしないほうがいいと思います。ポイントはいずれの場合も;

長尺枝の挿し木をするときに枝先に元気のいい葉が適量あって、それが蒸散を促し長尺枝の活性が保たれている

ということです。蒸散量に見合う水分が供給されることが重要なのは言うまでもありません。私の場合はそれが「底面給水」です。
枝先の葉の「適量」は条件次第なので数値化はできませんが、私の環境(方法)なら元気な7〜9枚葉が付いた葉柄が5本以上、葉数で50枚程度が理想的でしょうか。

私が使用した長尺台木10本の内3本はツルバラの長尺枝です。品種は「ドルトムント」「ザ・ジェネラスガーデナー」「フラウカール・ドルシュキ」で、いずれも2M弱の当年枝を使って「芽接ぎ挿し」が成功しました。

ただ、芽抜きをしていない「フラウカール・ドルシュキ」は、油断しているうちに接いだ芽と台の芽が両方とも伸びてしまいました。前掲12月の写真の右側、真っすぐ上に伸びている2本が「フラウカール・ドルシュキ」そのもので、右下に細く長く枝垂れているのが接いだ品種です。おかしいからそのままにしていますが、いずれ接いだ芽は負けるでしょうね、勢いが違います。どうするかは来春に花が咲いてから決めます。

今年の8本を含めるとスタンダード仕立てはもうたくさんあるし、仕立ててみたい品種も見つけられないので、今シーズンは数本程度のスタンダード仕立てを作ることになりそうです。11月に長尺枝を4本挿し木しました。これに1月に「芽接ぎ」をし、さらに数本の「芽接ぎ挿し」を試みる予定です。

「ガーデナー」であることより「接ぎ木職人」に憧れる私ですが、「スタンダード芽接ぎ挿し」が自分なりに納得できるレベルになったわけでもないのに、次の技術的なテーマが思い浮かばない=やる気が起きないのが大きな問題です(苦笑)。

バラ会の先輩から、「きれいな花を作るには、まず良い花を数多く見るということも大切だ」とのアドバイスをいただいたのですが、まさにそうでしょうね。私の場合は何よりも『こんなスタンダードを仕立ててみたい』と発想できることが大切なんでしょう。

"レッドカスケード" スタンダード仕立て by 広島バラ園
福岡県 駕与丁公園バラ園にて 2011年5月30日撮影

2016年12月29日追記:熊本県南関のバラ苗生産農家・福島園芸さんで「レッドカスケード」(クライミング・ミニ)の鉢植え3年株を見つけたので、即購入。今年はこれを接いでみます。まずは前回失敗に終わった「三ツ矢サイダー芽接ぎ挿し」のリベンジかな。これでやる気になれそうですが、ここでも私はガーデナー的発想ではありませんね(笑)。



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